『法事讚』を LaTeX で組版してみる —縦書き・二段組のテスト—

文系で、しかも仏教学や真宗学の学生で、LaTeX で論文を作成する人は今やほとんどいないのかもしれませんが、LaTeX はある程度慣れれば、その入口で感じるほどは複雑ではありません。フリーソフトウェアなので端末とネットワーク環境さえあれば誰もがいつでも始めることができ、好みのエディタでプレーンテキストを編集して、美しい文書を作成することができます。奥村晴彦先生の有名な LaTeX2ε美文書作成入門 などの有益な参考図書もたくさん出ていますし、また、TeX Wiki などの日本語で読める Web 上の情報も豊富ですので、躓いてもたいていの問題は解決すると思います。

さて、私も普段 TeX で文書を作成することはほとんどなくなったのですが、久しぶりに Mac の TeX を更新 したので、なにかテストで組版してみたくなりました。最近、善導大師の『法事讚』を読んでいたので、これをテストとして縦書きで作成することを目指します。その際、上段に「漢文」、下段に「書き下し文」という形になるように組版してみたいと思います。作業環境は Mac OS X El Capitan (10.11.6) で、TeX Live 2018 を Mac 用パッケージマネージャー Homebrew から導入しています (BasicTeX のみ)。

縦組みとフォントについて

縦組みには 先日のエントリー でも使用した jlreq クラスを利用します。

フォントには Adobe と Google との共同開発によって可能となった高品質の統一されたフォントファミリーである 源ノフォント (Source Han Serif/Sans) を利用することとします。このフォントの収録する文字は、日本語で Adobe-Japan1-6 (JIS X 0208、JIS X 0213 およびJIS X 0212) の漢字すべてを網羅し、漢字文献を扱うことの多い東洋学の分野での力強い味方です。源ノフォントを LaTeX で利用するために、TeX Live 2018で upLaTeX + dvipdfmx を使用して、ZR さんの PXchfon パッケージ を利用させていただきます (cf. upLaTeX文書で源ノ明朝/Noto Serif CJKを簡単に使う方法)。

このサイトの説明にあるように、プリアンブルには、例えば次のように書いておきます。

\documentclass[uplatex,tate,book,paper=b6,fontsize=9pt]{jlreq}
\usepackage{bxpapersize}
\usepackage[sourcehan]{pxchfon}
\begin{document}
なんとか、かんとか...
\end{document}

二段組について

多段組み関連のパッケージについて調べてみると、

などのサイトが見つかり、ここを見ると二段組に関していろいろなパッケージが利用できそうですが、ここでは pdfcolparallel を利用してみたいと思います。サンプルのソースファイルが こちら で公開されています。このパッケージは oberdiek パッケージ に含まれており、通常 TeX Live 2018 を導入済みなら (BasicTeX にも)、特にインストール作業は必要ありません。

使い方もシンプルで、プリアンブルに、

\usepackage{pdfcolparallel}

と書いておき、Parallel 環境内で左側のコラムには、

\ParallelLText{なんとか}

右側のコラムには、

\ParallelRText{かんとか}

と指定するだけです。

アクセント記号つき文字

『法事讚』などは中国撰述のテキストですが、基本的に仏典の漢訳は、サンスクリット語で書かれたものが翻訳されたものです。したがって、こうした漢訳のテキストを LaTeX で扱うときには、サンスクリット語 (ラテン文字転写) を出力する必要があるかもしれません。LaTeX では、かつては多少面倒な作業でしたが、今では Unicode でアクセント記号つき文字を直接入力して uplatex で処理することができます (cf. サンスクリット語)。

例えば、pxcjkcat パッケージucs パッケージ を利用して、プリアンブルには、

\usepackage[prefernoncjk]{pxcjkcat}
\cjkcategory{sym04}{noncjk}
\usepackage[utf8x]{inputenc}
\usepackage[T1]{fontenc}
\usepackage{txfonts}

というように書いておきます。

テスト

ではテストしてみます。『法事讚』のテキストは『真宗聖教全書』(三経七祖部) に拠ります (cf. SAT)。

% -*- coding: utf-8; -*-
% upTeX 3.141592-p3.1.11-u0.30
\documentclass[uplatex,tate,book,paper=b6,fontsize=9pt]{jlreq}
\usepackage{bxpapersize}
\usepackage[sourcehan]{pxchfon} % <-- フォント
\usepackage{pdfcolparallel} % <-- 二段組
% サンスクリット語 (ラテン文字転写) のための設定
\usepackage[prefernoncjk]{pxcjkcat}
\cjkcategory{sym04}{noncjk}
\usepackage[utf8x]{inputenc}
\usepackage[T1]{fontenc}
\usepackage{txfonts}
%
\begin{document}
\section*{安樂行道轉經願生淨土法事讚 下卷}
\subsection*{沙門善導集記}
\vskip10pt

\begin{Parallel}[v]{0.35\textwidth}{0.56\textwidth}
  \ParallelLText{高座入文}
  \ParallelRText{}
  \ParallelPar
  \ParallelLText{
    如是我聞。一時佛、在舍衛國祇樹給孤獨園、與大比丘衆、千二百五十人倶。皆是大阿羅漢、衆所知識。長老舍利弗・摩訶目乾連・摩訶迦葉・摩訶迦栴延・摩訶拘絺羅・離婆多・周梨槃陀迦・難陀・阿難陀・羅睺羅・憍梵波提・賓頭盧頗羅墮・迦留陀夷・摩訶劫賓那・薄倶羅・阿㝹樓駄、如是等諸大弟子、并諸菩薩摩訶薩、文殊師利法王子・阿逸多菩薩・乾陀訶提菩薩・常精進菩薩、與如是等諸大菩薩及釋提桓因等無量諸天大衆倶\footnote{
      鳩摩羅什訳『阿弥陀経』からの引用。サンスクリット語は以下の通り: evaṃ mayā śrutaṃ ekasmin...}。
  }
  \ParallelRText{
    是の如く我聞きたまへき。一時佛、舍衛國の祇樹給孤獨園に在まして、大比丘衆、千二百五十人と倶なりき。皆是大阿羅漢にして、衆に知識せられたり。長老舍利弗・摩訶目乾連・摩訶迦葉・摩訶迦栴延・摩訶拘絺羅・離婆多・周梨槃陀迦・難陀・阿難陀・羅睺羅・憍梵波提・賓頭盧頗羅墮・迦留陀夷・摩訶劫賓那・薄倶羅・阿㝹樓駄、是の如き等の諸の大弟子、并に諸の菩薩摩訶薩、文殊師利法王子・阿逸多菩薩・乾陀訶提菩薩・常精進菩薩、是の如き等の諸の大菩薩及び釋提桓因等の無量の諸天大衆と倶なりき。
  }
\end{Parallel}
\vskip10pt

\begin{Parallel}[v]{0.35\textwidth}{0.56\textwidth}
  \ParallelLText{下接高讚云}
  \ParallelRText{下高に接して讚じて云へ}
  \ParallelPar
  \ParallelLText{
    願往生、願往生。諸佛大悲心無二、方便化門等無殊。捨彼莊嚴無勝土、八相示現出閻浮...
  }
  \ParallelRText{
    願はくは往生せん、願はくは往生せん。諸佛の大悲心無二なり、方便化門等しくして殊無し。彼の莊嚴無勝の土を捨てて、八相示現して閻浮に出でたまふ...
  }
\end{Parallel}
\end{document}

…というように左コラム (ParallelLText) に「漢文」を、右コラム (ParallelRText) に「書き下し」を、サンスクリット語などは Unicode で直接入力してテキストを作成していきます。コンパイルは Mac だと Terminal.app で、

$ uplatex test.tex
$ dvipdfmx test.dvi
$ open test.pdf

というように行います。こうして TeX の構文に従ってテキストファイルを作成しコンパイルを行うと、完成した PDF は以下のようになります。

tex_test_09.png

サンスクリット語のラテン文字転写もうまく出力されています。

tex_test_08.png

# 下点付き文字 (ṃ など) が若干おかしい気もします。これ、調べておきます^^;

今は『法事讚』の下巻のほんの冒頭だけですが、上のソースファイル を一応ここに置いておきます。

少し時間がかかりそうですが、このような調子で『法事讚』の自分用の学習テキストを作成してみようと思います。完成の後には、またここにアップしたいと思います。良いテキストができるといいのですが…

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