現在、寺の庫裏の改修工事が行われていて、普段洗濯に使っていた中庭のスペースへの通路が狭められて、行き来が不便になっています。加えて、中庭には工具や木材が乱雑に置かれていたりもします。その狭い通路を通って、布団を干しに、抱え持っていくのが面倒で、しばらくサボっていました。今日はお天気もよく、日曜日で工事もお休みで、重い腰を上げて、その細い通路を布団を抱えて通って中庭へ出てみました。
ここしばらく中庭へ出ることがありませんでしたが、ふと足元を見ると赤い実が2粒3粒落ちていました。「はて」と思って、上を見上げると鈴なりに山桜桃 (ユスラウメ) の実がなっていたのです。
この山桜桃の木は、工事の足場を組むため、今年の初めたくさんの枝を切り落としました。そのため、今年はほとんど実をつけることがないだろう、と勝手に思いこんでいました。実際に、毎年春先に咲く白色5弁の小花も、例年よりはるかに少なかったのでした。しかし、今日、たまたま布団を干しにここに出て、赤赤と綺麗な実を結んでいる木に気づいたのでした。
進化生物学者の長谷川英祐さんの著書『働かないアリに意義がある 』は人間社会を考える上で示唆に富んだ良書ですが、その中であるおもしろい研究結果が報告されていることを思い出しました。
あるアリが大きな餌場を見つけると、そのアリを正確に追跡することのできるアリと、うまく追跡できないアリとが出てくるようです。アリの社会にもお利口なアリとうっかり者のアリがいるようです。研究チームは、この正確に追跡できる利ロなアリばかりを集めた集合と、うまく追跡できないうっかり者のアリを混ぜた集合とで、どちらがエサの持ち帰り効率があがるか実験したそうです。
すると、うっかり者のアリを混ぜた集合の方がエサの持ち帰り率があがったそうです。なぜこうしたことが起こるかというと、「間違える個体による効率的ルートの発見」という効果があるようです。すなわち、正確に追跡することのできるアリはその正確性ゆえに、エサを発見したアリと同じルートしかたどりません。一方で、うっかり者はうっかり道を誤っているうちに、偶然に餌場へのショートカットを見つける場合があり、彼らうっかり者の発見した新ルートのおかげで、全体としてエサの持ち帰り率があがる、ということです。効率ばかり追い求める組織よりも、一見した非効率性がかえって効率性を生み出すことがあり得るのです。
さて、私は今日、布団を干すのを怠けて偶然たわわに実るユスラウメの実を見つけた時、なぜかこの話を思い出しました。怠け者が新しいエサ場を発見したんだぞ、というような気持ちになったわけです。まあ、今の場合怠けなければもっと早くに気づいていたのでしょうが…